源頼朝の踏み出した第一歩、石橋山の戦いは頼朝の敗北に終わりますが、実は石橋山の戦いの前に、頼朝はある武士を襲撃し、勝利しています。その武士の名前は山木兼隆、『曽我物語』などの創作物では、「政子の本来の婚約者」だと紹介されることもある男です。
京からの流人、政子との因縁など、実は頼朝との共通点とも多い山木兼隆。どのような人物だったのか、調べてみました。
山木兼隆は頼朝同様に流人だった
山木兼隆の父は平信兼、いわゆる桓武平氏の一派で、平清盛とは同族にあたります。父の信兼は平家が栄華を極める中で同族として取り立てられ、出羽守、和泉守、河内守など国司を歴任しました。
国司は身分こそ中級貴族ですが、地方での税収が大きく、金銭面ではかなり裕福な暮らしをしていたことでも知られています。信兼も、その恩恵に預かったことでしょう。
その信兼の息子が、山木兼隆です。兼隆は清盛の義弟・平時忠（清盛の正室時子【二位尼】の弟で、「平家にあらずんば人にあらず」という発言で非常に有名ですね）の部下として検非違使の任についていましたが、信兼によってなぜか訴えられ、官位を取り上げられて伊豆国に流されてしまいます。
兼隆がなぜ父に訴えられたのか？その理由は分かっていません。父と折り合いが良くなかったのか、父に何らかの不利益を与えたのか……？
流されてしまった兼隆ですが、兼隆の流罪先の伊豆国は、かつての上司、平時忠が知行国主についていました。時忠は現地における自身の代理人、目代として、兼隆を任命します。
兼隆は流人でありながら、一気に伊豆国の有力者として名をはせるようになりました。
政子が大姫を産んだ年から考えるといまいち信ぴょう性の低い話ではありますが、目代という有力者である兼隆に、北条時政は娘政子を嫁がせようと画策していたという話もあります。しかし政子は兼隆を選ばず、雨の中頼朝のもとへ駆け落ち同然に逃げ込んだそうです。
山木兼隆の名字の意味＝山木郷の武士
山木兼隆は本来兵士のため、正式には「平兼隆」という名前になります。しかし、彼は目代として伊豆国の山木郷に館を持っていたため、「山木兼隆」という通称で呼ばれることが多いです。
山木兼隆は現在の伊豆の国市あたりの有力者（目代）だった
山木兼隆は京からの流人でしたが、京にいる伊豆国の知行国主・平時忠の目代に任命されます。目代は京の有力者を後ろ盾に持つわけですから、ただの流人に過ぎなかった兼隆は一気に伊豆国の有力者へと躍り出ます。
一方、古くから伊豆国に勢力を張っていた武士からすると、兼隆はあまり面白い存在ではありません。もともと伊豆国は、摂津源氏の源頼政（源三位頼政）が知行国主だったのですが、頼政の敗死により、平時忠が知行国主となったのです。
頼政と関係の深かった伊豆国の有力者である工藤氏や北条氏は、兼隆ではなく他の流人……頼朝のもとに集結します。そして、火ぶたは切られました。
山木兼隆の死因：加藤景廉によって討ち取られる
治承4年（1180年）8月17日深夜、その日は三島大社の祭礼の日で、山木兼隆の屋敷も、祭りの楽しい雰囲気が残っていたことでしょう。しかし、その雰囲気を割くように兼隆の屋敷に矢が投げ込まれます。
兼隆主従は突然の襲撃にも、果敢に応戦しましたが、ついに力尽き、頼朝の部下・加藤景廉によって討ち取られました。屋敷には火が放たれ、一夜にしてすべては焼け野原になりました。その後、頼朝は自邸の庭先で、兼隆の首を検分したと伝わります。
頼朝は兼隆の首を眺めて何を思ったのでしょう。とりあえず成功したという安堵でしょうか、それとも、これからが大変だと気を引き締めたのでしょうか。
山木兼隆の子孫
山木兼隆に子孫がいたのかはよく分かっていません。山木兼隆の館は焼き討ちにあっていますから、家族がいたとしても、襲撃で亡くなっている可能性も高いでしょう。
しかし一説には、兼隆には兼光、兼盛の2人の子供がいて、八巻氏を名乗り後代へ続いていったという説があります。「八巻」と名乗ったのは、山木だと分かりやすいため、「やまき」と読める「八巻」に改姓したといったところでしょうか。
八巻氏は甲斐国の武田氏に仕えますが、武田氏の滅亡とともに帰農したそうです。
一部の八巻氏は川中島の戦い後、武田家から上杉家へと仕えるようになり、上杉家の会津移住まで仕えます。上杉家の米沢転封までは同行せず（米沢転封時に上杉家はかなり石高を減らされているため、ついていくことが出来なかったのでしょう）その後は伊達家に仕えたと伝わります。
